研究者・企業の方へ

iACTが支援した研究開発成果シリーズ【第1話】

Medical Imaging Projection System(MIPS)

開発中の思い出

波多野 悦朗 医師(肝胆膵・移植外科)
「私達の術中の疑問とパナソニックさんの発想、このセレンディピティがMIPS*(ミップス)の誕生につながりました。
 MIPSは嘘をつかないんです。見えないものを可視化するというのがMIPSの面白いところ。肝臓でも今まで見えにくかった領域がMIPSのおかげで見えるようになりました。これから他の手術領域でも新しい発見が出てくる可能性があります」

*Medical Imaging Projection System(MIPS):世界初のプロジェクションマッピングを応用した手術支援システム




瀬尾 智 医師(肝胆膵・移植外科 当時)
「2010年以降、流行したプロジェクションマッピングと医療分野の融合でした。
 肝臓手術中の出血が多いことから、我々は安全でできるだけ出血しない手術の方法を探しており、切開部分を可視化するMIPSの開発に着手しました。
 MIPSは教育面でも優れたツールであり、学生に手術の奥深さを伝えることができます。実際、青色に光る肝臓を見た学生たちは驚きの声を上げます(上図、本院肝胆膵・移植外科から借用)」

髙田 正泰 医師(乳腺外科、当時)
「乳がん患者さんのセンチネルリンパ節生検に対してMIPSを用いた臨床試験を行い、データを提供しました。皮下脂肪中にあるリンパ節は肝臓に比べて小さく、MIPSの用途も異なりますので開発時には条件設定の調整が必要でした。
 MIPSを導入すると手術が効率的に進められますし、術者たちで画像を共有して安全に進められます」



中村 勝之 氏(三鷹光器株式会社)
「薬事承認の部分が一番苦労しました。2019年、我々がMIPSを世界の医療機器見本市「MEDICA」(ドイツ)で展示していた時、薬事承認のメールが届きました。非常に感慨深かったです。
 現在はCEマークを取得し、欧州でデモ機の配備を進めています。見本市での反響をそのままに、MIPSの良いところを世界中に伝えていきたいです」


北岡 義隆 氏(パナソニック株式会社、当時)
「目に見えないICG(インドシアニングリーン)をプロジェクションで可視化するプロジェクターの開発が社内で進んでいましたが、PMDAから薬事承認がクラス2になると言われ、いったん対応不可となりました。 
 最終的に三鷹光器さんと協力し、手術用顕微鏡にプロジェクターを取り付ける形で実現しました。
 開発の7年間、一番苦労したのは仲間作り、チーム作りでした」


服部 華代 氏(iACT医療開発部)
「産学連携で大切なのは人・金・物の三拍子です。2014年にチーム発足、2016年にAMEDの予算を得てから開発は加速。しかし、認証基準のないクラス2の承認となり、パートナー企業の変更を余儀なくされました。
 7年の間には開発メンバーの異動もありましたが、プロジェクトを守っていくことも、私たちiACT支援部隊のミッションです。
 開発期間中の会議後の飲み二ケーションでは会議中に言えなかったことを伝え合い、信頼できるチーム形成に繋がりました」


研究開発年表



2024年6月、世界初の手術ナビゲーションシステムである「Medical Imaging Projection System(MIPS、ミップス)」の開発について座談会が開催されました。この研究開発は、AMED 橋渡し研究加速ネットワークプログラム(京都大学拠点シーズA)及びAMED 医療分野研究成果展開事業 産学連携医療イノベーション創出プログラム ACT-M)の支援を受け、iACT(先端医療研究開発機構)による伴走支援のもと、京都大学病院とパナソニックの共同研究によって実現しました。

シーズから薬事承認まで約7年かかり、MIPSの開発と実用化には多くの課題がありました。しかし、それらを乗り越えた結果、現在では臨床現場で大きな成果を上げています。今後もMIPSの技術がさらに広がり、多くの手術領域で新しい発見と改善が期待されます。

座談会の参加者は当時の開発研究メンバー、波多野悦朗医師(肝胆膵移植外科)、瀬尾 智医師(肝胆膵移植外科、当時)、髙田正泰医師(乳腺外科、当時)、中村勝之氏(三鷹光器株式会社)、北岡義隆氏(パナソニック株式会社、当時)、服部華代氏(iACT医療開発部)の6名。以下では、座談会で語られたMIPS開発の背景とその意義について紹介します。


開発の背景

瀬尾医師は、肝臓手術の高い死亡率の主因である大量出血に対処するため、手術中に血管の位置を正確に把握できるナビゲーションシステムの必要性を感じていました。「血管のないところを切れば出血はしない」というシンプルな発想が、そのアイデアの出発点でした。


開発の経緯と挑戦

2014年に本格的に始まった開発は、まず豚の肝臓を使った実験からスタートしました。試行錯誤を重ねながら、プロジェクションマッピングを肝臓手術に応用する方法を確立しました(右図、三鷹光器株式会社作成カタログより引用)。肝胆膵移植外科(当時)の瀬尾医師は、実際の肝臓の手術でMIPSの有効性を確認し、血管の位置を正確に把握することで出血を最小限に抑えることができることを実感しました。


臨床応用と成果

乳腺外科が専門の高田医師は、MIPSを使用した手術が安全性を飛躍的に向上させ、多くの患者に恩恵をもたらしたと述べました。この技術により、小さな切開創から皮下脂肪下の空豆大のリンパ節も見つけることができるようになり、出血リスクを低減、手術の成功率を大幅に向上させました。


規制当局等との連携

服部氏は、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)やAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)との連携の重要性を強調しました。これらの機関との連携により、MIPSの開発と実用化がスムーズに進みました。特に、開発早期段階のPMDAの助言やAMEDからの研究資金の支援がプロジェクトの成功に大きく寄与しました。


今後の展望―さらなる改良と普及、応用分野の開拓

北岡氏と中村氏は、MIPSのさらなる改良と普及に向けての計画と、それを進めるチーム内の連係について語りました。現在の技術を基盤に新たな応用分野を開拓し、より多くの医療現場での活用を目指しています。


企業へのメッセージ-産学連携による医学技術開発の意義

服部氏は、産学連携の重要性を強調し、企業と研究機関が協力して新しい医療技術を開発することの意義を述べました。今回のMIPS開発はその好例であり、今後もこうした連携が重要であると述べました。


まとめ

MIPSは企業と研究機関の協力によって生まれた革新的な技術です。iACTの支援を受け、京都大学病院とパナソニックが手を組んだこのプロジェクトは、手術の効率化に向けた重要な一歩となりました。今後も、産学連携による新たな技術革新が期待されます。



詳しくはこちら(京都大学医学部附属病院のサイトへジャンプします)もご覧ください。

(2024年5月収録)